なぜ今、家族信託が注目されるのか?メリット・デメリットも合わせて解説!
家族信託とは、不動産や金銭などの財産管理や処分を、信頼できる家族に託せる、財産管理方法のひとつです。高齢化が進み、認知症の問題も深刻化しています。一方で、介護をする子どもの金銭的な負担も、少なくありません。
そこで、所有者である親が、認知症や介護を必要となった場合など、将来の備えとして注目されています。家族信託について、メリットやデメリット、費用についてなど、分かりやすくご紹介します。
家族信託について
誰もが気軽に利用できる家族信託の制度では、両親が高齢になるにつれて起こりうる、万が一のときに備えることができます。また、知的障害のある子どもにとって、親なき後の不安を解消するための方法としても知られています。
この制度によって、子どもに財産を管理運用処分できる権利が委ねられます。子どもが、財産の管理や運用、もしくは処分できるようになれば、親の負担が軽減されるでしょう。ただし「財産から得る利益を受ける権利」については、含まれませんので、注意してください。
たとえば、親が認知症になって悪化した場合、銀行口座は凍結されてしまいます。そのため、介護をする子どもであっても、親のお金を引き出せなくなり、その結果、経済的な負担を強いられることになります。
ただし、この契約を行うには、相続する可能性のある関係者全員が、事前に理解して納得しておくことが重要です。仮に知らされていなかった人がいた場合、将来的に大きなトラブルに発展する可能性が高くなります。
関係者同士で折り合いがつかない場合や、全員での話し合いができないときには、専門家に相談するとよいでしょう。なにより、全員が納得して進めることが、親の願いを叶えることに繋がります。
家族信託の仕組みについて
家族信託の契約では、3人の人物が関わることになり、それぞれに役割があります。まず委託者には、財産権と家族に委託する権利を持っています。その受託者から財産の管理から運用、さらには処分を委託されるのが、受託者です。
財産からの利益を得られるのは、財産権を持っている受益者ですが、委託者でもある親である場合が多いでしょう。
家族信託については、祖父母や両親が認知症になった際に、子どもが金銭を使うことや、不動産処分をすることが可能となります。ただし、その売買した金銭については、財産権の所有者である、祖父母や両親のために使うことが前提となります。
家族信託の活用方法とは
家族信託は、子どもに不動産を託すことができる契約です。そのため、高齢の親が認知症になった場合でも、事業の継続が可能になります。さらには、子どもに面倒な不動産管理を任せておけば、収益については自身で受け取れるため、親の負担も軽減されるでしょう。
ただし、認知症対策を目的としていますが、入居契約等の代理権限は持てません。また、ほかに財産があった場合でも、家族信託した財産分にしか適用されないため、遺産分割協議をする必要があります。
それらのことを防ぐには、家族信託契約だけでは不十分でしょう。そのため、任意後見契約と遺言の準備も検討することが必要です。それにより、それぞれに不足している部分をカバーしやすくなり、想定外のできごとにも対応できるという安心感が持てます。
ほかに、知的障害のある子どもの「親亡き後問題」にも、対応できるようになります。
ほかに頼れる兄弟姉妹がいれば、その子どものために財産の信託が可能です。そのため、子どもを守る仕組みが作れ、その子が亡くなった後のことも、親が前もって決めることができます。
家族信託の正しい進め方や運用方法を理解する
親を介護している子どもにとって、家族信託は認知症対策に有効な制度です。親の財産を介護費用や生活費に充てることにより、経済的負担も軽減されます。
ただし、家族間で十分な話し合いをせずに進めてしまうと、あらぬ誤解を招き、争いが起こる可能性があります。その理由としては、財産名義の変更や、財産の継承についても決定できる制度であるためです。
不動産の財産権を信託した場合は、高額な税金が発生する場合があります。所有者が亡くなったあと、信託契約が終了した際に、登記のための登録免許税がかかります。
そのときに課税される税率について、契約書の内容によっては、高い税率がかかる可能性があるので、注意が必要です。
認知症対策としての家族信託
家族信託は、認知症対策に有効な制度ではありますが、親に契約する能力がある場合にのみ実行できます。そのため、早めに家族で話し合い、契約締結までにかかるスケジュール感も把握しておくとよいでしょう。
認知症が進んでしまった場合には、信託契約をすることができなくなってしまいます。また、認知症の相続人がいた場合は、遺産分割協議ができません。
そのため、亡くなった方の財産は凍結され、銀行預金が下せずに、不動産の処分もできなくなります。また、署名などを認知症の人の代筆をした場合は、無効となるだけではなく罪に問われるので、絶対にしないようにしてください。
しかし、認知症であっても相続放棄ができず、ほかの相続人が申し立てをしても、家庭裁判所で受理されることはありません。そこで、成年後見制度を利用する方法があります。
成年後見制度の利用について
認知症が悪化した場合でも利用できる対策として、成年後見制度があります。ただし、こちらの制度については、親族が必ずしも後見人に選ばれるとは限りません。
後見人に専門家が選ばれた場合は、報酬が発生します。原則、途中で解除することができないルールになっているため、注意が必要です。さらには、財産の管理運用処分に制限が設けられる場合もあり、利用しづらい点が多く挙げられます。
成年後見制度では、本人の財産を守ることに重点が置かれているため、財産が減るような管理はできません。ただし、後見人が財産の管理や、介護関係の契約、または施設や病院など、本人の代わりに契約することができる制度になっています。
後見人の選定については、手続きに1から3か月ほどかかる場合がありますので、早めに申込をしておくことも必要です。
成年後見制度よりも柔軟な財産管理が可能なのが家族信託であり、裁量は受託者しだいとなります。そのため、受託者には信頼している家族に決めることが重要なポイントです。
認知症であっても、程度が軽度で判断能力が十分にあると認定される場合、契約は可能です。ただし、将来にその有効性についてトラブルが発生することもあるため、事前に十分に話し合うことが必要です。
生前対策としてできること
相続人のうち、一人が認知症などのために判断能力がない場合は、遺産分割協議をすることはできません。そのような事態を防ぐためにも、生前にできることを、なるべく早めに準備しておくことが大切です。
その対策のひとつが、遺言書の作成です。相続する人物や、相続内容をあらかじめ決めておくことにより、遺産分割協議をせずに、相続手続きをすることができます。
また、家族信託を契約することで、同じく遺産分割協議を行う必要はありません。ほかにも生前贈与という手段もあります。ただし、控除額以上の贈与だった場合は、贈与税が発生しますので、十分に考えてから手続きをすることをおすすめします。
親の財産について、家族間で知らされていない人がいると、感情面からトラブルに発展することになります。全員の合意を得た上で契約を進められるようにするためには、委託者である親から、直接話してもらうことも重要なポイントです。
なお、もともと資産が少ない場合は、家族信託をする必要はないでしょう。逆に、契約をするにあたっての費用の方が、高くなってしまう可能性もあります。
家族信託の手続きとは?
家族信託については、委託者(親)と受託者(子)で、信託契約の内容、認識の違いがないかを、事前に確認することが必要です。そのため、契約書には、目的や財産の範囲だけではなく、管理・処分方法などについても記載するようにして、契約を締結させましょう。
また、その信託財産の管理をするにあたっては、専用の口座を開設しなければなりません。それは、信託財産と受託者の財産をきちんと分けた上で、管理するという義務があるためです。
そのように分けておくことで、のちに問題となることを防ぐメリットもあります。信託銀行や銀行などの中には、家族信託専用口座を開設できるところもあるので、調べておくとよいでしょう。
次に、信託財産が不動産の場合は、信託登記を行うことが必要です。名義人を委託者から受託者へ変更する登記をすることで、信託財産であることが公示されます。
登記事態は法務局で手続きすることなりますが、自身での対応が難しい場合は、司法書士に相談する方法もあります。
家族信託の費用について
家族信託を自身でする場合は、信託契約書を校正証明書にする費用として、1万円から5万円ほどの費用がかかります。さらに、不動産をもっている場合は「不動産の登録免許税」として、固定資産税評価額の1,000分の4が発生します。さらに土地信託だと、固定資産税評価額の1,000分の3となります。
仮に外部に組成を依頼した場合、専門家に支払う金額については、統一された報酬基準はありません。ただし、自身で行う場合の費用に加えて、信託財産の1%以上の費用がかかることになります。
家族信託契約をしてからも、長期間にわたって関わってもらう可能性が高いでしょう。契約後にも、サポートしてもらえるかの確認が必要です。それにより、予測不能の事態にも対応してもらえる安心感もありますが、報酬額も変動します。
費用を節約するために自身で行うことも可能ですが、手続きが複雑であるため、専門家に相談することをおすすめします。契約書作成において、信託契約に関する法的な知識が必要であり、自分で行ったために、高額な税金が発生してしまう可能性もあります。
家族信託を利用するメリット
家族信託は、名義変更のみを合法的に行えることも、メリットとして挙げられます。それにより、財産管理を行う際にも、委託者の判断能力に影響されません。そのため、親が認知症になってしまった際に、財産凍結の問題に悩まされる可能性が低くなります。
そうなると、介護をしている子どもが、親の預金口座からお金を引き出せないことによる、経済的負担は増加してしまいます。また、財産を管理することが難しい場合は、不動産の売買もできません。
しかし家族信託では、親が財産権を持っている状態のため、場合によっては契約を解除すれば、自分の名義に戻すことがきます。さらには、贈与税、不動産取得税もかからず、税務上の特例も使える場合があります。
仮に、受託者である子どもが破産をした場合でも、倒産隔離機能が使えます。信託財産の権利は、あくまでも委託者である親にあります。そのため、親の債権者でない場合は、差し押さえることはできません。
家族信託による遺言効果について
家族信託では、委託者である親が、財産や事業の継承について決定できる遺言効果もあります。その財産権を誰に継がせるのか、事前に特定させておくことは、法律上でも有効な手段となるのです。
さらには、3番目以降の後継者を決めることができるのも、家族信託の特徴でしょう。仮に、リスクが大きい不動産の保有に関しても、遺族間での共有とはなりません。家族信託の契約によって、たとえ契約能力を喪失した遺族がいた場合でも、その影響を回避することができます。
遺言効果においては、相続発生による遺産分割協議が不要となることがあります。これは、継承者をあらかじめ決めておくことの、大きなメリットです。
遺産分割協議においては、相続人全員で、相続する内容を決める必要があります。その際に、意見が合わない、または認知症や身体的な事情で話し合いができない場合は、手続きがスムーズに行われません。
相続争いで遺産凍結が起こることを防ぐためにも、委託者によって、財産の継承者をあらかじめ決めておくことが大切になります。
家族信託を利用するデメリット
家族信託のデメリットは、財産管理のための制度であるため、身上監護権が持てないことです。仮に、認知症の親を施設に入居させるためでも、受託者が入居の契約はおこなえません。
その場合に、施設の入居費用を信託財産から支払えるだけになります。もし、将来に備えて身上監護権も考慮したいのであれば、任意後見契約を結ぶことにより、あらかじめ後見人を指定しておけます。
ほかにも、親族間での不公平感による摩擦が起こる可能性が高くなります。家族信託を進める際には、全員と話し合いをし、納得した上で契約することがとても重要です。
受託者を一人だけに決めた場合に、知らせてもらえなかった家族と争いに発展することもあります。信託財産の受託者の持つ権限により、財産の収支状況が明確にされない事態にも発展しかねないでしょう。
家族信託の契約は親である委託者が行うものであり、他の家族だけで勝手に進めることはできません。そのため、内容を理解してもらったうえで、家族間で話し合いをして同意を取ることが必要になってきます。
家族信託がもたらす家族の負担
財産の管理については、誰もやりたがらないケースもあります。そうなると、家族信託そのものができません。
たとえば、建物の財産管理をしなければいけない場合、老朽化に伴う人為的、または損害に対する賠償責任が発生します。その被害額が、信託財産以上の費用となってしまう場合は、自分の財産から捻出しなければなりません。
また、固定資産税に関する手間も発生することになります。納税通知書については、受託者に届きますが、その受託者である親に、信託財産の状況報告をおこなわなければいけません。
家族信託では、相続税の節税や、保有している不動産などの価値は下げられません。財産権については、あくまでも委託者である親が持っているため、不動産等の名義を受託者に変更しても、節税対策にはならないということです。
また、遺産相続の権利を持っている人から、遺留分に相当する金額を、財産権の継承者に請求してくる場合があります。その理由として、財産を偏った配分で承継させる場合に起こります。
もし、遺留分について請求される可能性がある場合に備えて、準備が必要です。そうならないためにも、家族信託契約をする前には、家族で十分に話し合いをすることが重要となります。
まとめ
家族信託について検討し始めるのは、子ども世代は50代から60代、そして親世代は70代以上からが多くなります。きっかけはさまざまですが、親が認知症になってしまってからでは遅いでしょう。早めに準備を始めることで、できる対策の範囲は広がります。
認知症だけではなく、所有者が自身の高齢化に伴い、財産管理に不安を抱き始めることもあります。その際は、早めに家族で話し合いをすることが必要です。
家族信託を確実に機能させるためには、契約書の内容はとても重要です。とくに不動産事業は、長期間にわたって継承されるものです。
まずは、自分なりに調べておくことも必要ですが、専門家にも相談しながら、慎重に進めることをおすすめします。
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